ブロードウェイの劇場で、大女優が殺された!ニューヨーク市警のアポロ警部が捜査に乗り出したが、周囲の人物は、プロデューサー、劇作家、演出家、共演俳優、楽屋係まで、皆、わがままな大女優に恨みを持っており、誰もが怪しかった。さて、犯人はいったい!? ブロードウェイの劇場街を舞台に賑やかな推理ドラマが展開するミュージカル。
ブロードウェイの劇場。ミュージカルの舞台稽古が行われていた。ところが稽古中に、主演女優のマリオン・デイがスタッフのミスにはげしく怒り出し、楽屋に帰ってしまう。わがままな大女優の態度に、カンパニーの人々は、皆、頭を抱えていた。その日、マリオンは楽屋で、他殺体となって発見される。劇場で殺人事件が起こったのだ。さっそく捜査に乗り出したのは、ニューヨーク市警のアポロ警部と、助手のワトソン刑事。ところが捜査を始めると、大女優は周囲の人間と数々のトラブルを起こしていたことが分かり、誰もが怪しいことが分かる。プロデューサーのバーンズは、わがままで高額なギャラのマリオンに振り回され続けていた。演出家のマイルズは、マリオンに金を借りていたが、返済出来ずにいた。脚本家のアンソニー・ムーアと妻で振付家のキャシーは、マリオンに弱みを握られていた。相手役のトニーは、マリオンに自分の役を小さくされていた。代役のジュリーは、マリオンがいなくなると主役が回ってくることになっていた。ダンサーのリンダは、マリオンが衣裳に付けていた宝石に目がくらんでいた。劇場管理人のイーサン・エドワーズは、なぜか偽名で働いていた。楽屋係のモイラには完璧なアリバイがあったが、なぜかマリオンの死を知っていたようだった。アポロ警部は、助手のワトソン刑事と共に、天才的な推理を働かせ、この難事件に挑む。さて、この事件の驚くべき全貌は!? そして、犯人は・・・!?
映画やテレビでは大きなひとつのジャンルと言える推理劇(刑事ドラマ)ですが、ミュージカルでは、数少ないかもしれません。私が推理劇の面白さに目覚めたのは、21歳の頃、英米演劇論の浅田寛厚教授の授業で、アガサ・クリスティの「ねずみとり」を学んだ時以来です。ストレートプレイの世界最長ロングラン記録を達成したこの空前の名作は、改めて舞台演劇の底知れぬ面白さを教えてくれました。観客も面白いのですが、演じている俳優さんたちもさぞ面白いだろうと胸を躍らせながら読んだことを覚えています。それから様々な推理劇や刑事ドラマに触れてきましたが、2002年、ブロードウェイの劇場で大女優が殺され、周囲の人物は皆、女優に恨みを持っていて誰もが怪しいという、アガサ・クリスティ・タッチの推理劇をミュージカル・コメディにしたいと思い、「ブロードウェイ殺人事件」を書きました。主人公はクリスティの名探偵ポアロをもじって、アポロ警部としました。2002年の初演では、林アキラさんや田中利花さん、伊東えりさんたちに演じていただきました。
初演以来、この作品についてずっと考え続けて来ましたが、次第に新しいアイデアが生まれて来て、2021年9月から10月にかけて、全面的に書き直しました。「ねずみとり」や「オリエント急行殺人事件」、イングリッド・バーグマンの映画「ガス燈」などに共通して見られる“ある構成”を、作品の中に色濃く取り込むことでした。“ある構成”とは、「現在の殺人事件は、過去に起こった未解決の殺人事件が影響を及ぼしている」という構成です。長年推理劇に触れてきて、私自身がこの構成が大好きなのだと自覚したので、入れたくなりました。実は、この構成は初演の台本にもうっすらとあったのですが、それをもっと強調したのが、今回の台本です。舞台演出も、初演当時は出来なかったスタイルで今は出来ますので、これを機会に、シンプルで再演しやすい形に変えて書き直すことにしました。
公演の準備期間から公演終了後まで、毎晩推理劇を見ているほどの個人的「推理劇ブーム」の期間になりました。生涯に長編推理小説だけで66本も書いたアガサ・クリスティのすごさ。私もこの期間だけは、推理作家のような日々を過ごしました。いつも推理劇のトリックを考え続けているのです。散歩をしたり、シャワーを浴びている時にハタと気づいて、大急ぎで机に向かうこともたびたび。面白い体験の日々だったなあと思います。20年もかけた台本だったので、私は生涯で推理劇はこれ一本と公言していましたが、もしもある日突然、すごいアイデアを思いついたら、もう一本書くかもしれません。これからの日々に期待して過ごそうと思います。
世界最長ロングラン記録を達成した舞台は、ロンドン、ウエストエンドで上演を続けるアガサ・クリスティの「ねずみとり」です。1952年の初演以来、上演を続けて、「ウエストエンドの備え付けの家具」と呼ばれています。21歳の時、私にそのことを教えてくれたのは、英米演劇論の浅田寛厚教授でした。推理劇は、まさに娯楽の王様だと思います。そこに歌と踊りが散りばめられたミュージカルは、最高の娯楽となるに違いないと確信し、創作を続けて来ました。その思いは、今も変わることがありません。
桐朋学園大学音楽学部卒業後、オペラ、ミュージカルの舞台に数多く出演。また、スタジオプレイヤー(ベース、キーボード、ヴォーカル)、コンサートのバックミュージシャン、アレンジャー、指揮等々の経験を積んだ後、スタッフ活動に加わり、ミュージカルの分野では「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「回転木馬」「42nd ストリート」「ラ・マンチャの男」「ベガーズ・オペラ」「ブラッド・ブラザーズ」「GOLD~カミーユとロダン~」「ダディ・ロング・レッグズ」等の音楽監督、並びにヴォーカルトレーナーを務め、コンサート、リサイタルの構成・プロデュースなども数多く手がけている。また、タレント、歌手の方々のヴォーカル指導にも力を注ぎ、あらゆるジャンルに対応出来る声作りを目指している。「ひめゆり」「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」「ルルドの奇跡」「赤毛のアン」「ママ・ラヴズ・マンボ」「スウィング・ボーイズ」など、オリジナル・ミュージカルの作曲・編曲家としても数多くの作品に参加し、「山彦ものがたり」では文化庁主催海外公演(中国・ベトナム・韓国)を行い、英語台本でのニューヨーク公演は反響を呼んだ。「ミュージカル座」の作曲・音楽監督として、オリジナル・ミュージカルの新作発表を目標に創作活動を続けている。その他、NHKをはじめ多くのTV番組の音楽スタッフとして活動するかたわら、若い才能の育成にも力を注いでいる。2006年には舞台の音楽活動に対し菊田一夫賞(特別賞)、2007年には読売演劇大賞優秀スタッフ賞、2010年には日本演劇興行協会賞を授与された。ミュージックオフィスALBION代表。