ミュージカル「ハートスートラ」
ミュージカル「ハートスートラ」
作品内容

“国民的お経”と言われる「般若心経」をミュージカルにした画期的作品。アジアの思想・哲学・美術・音楽・舞踊を表現するために創作。全編、音楽が途切れることのないポップ・オペラ形式のミュージカルで書かれている。 タイトルの「ハートスートラ」は、「般若心経」の英語読み。作者ハマナカトオルが欧米で上演したい作品NO.1で、すでに英語版台本も作られている。

1,500年の昔から、世界で広く親しまれてきたお経「般若心経」。あらゆる悩みから解き放たれる仏教の心髄と言える最高の智慧が、わずか262文字のなかに含まれています。 西洋人も心酔する、この奥深い東洋の智慧には、いったいどのような教えが書かれているのでしょうか。ミュージカル「ハートスートラ」は、ミュージカルという美しく音楽的な舞台芸術の魅力のすべてを使って「般若心経」を分かりやすく紐解き、 皆様に知っていただくと同時に、心と身体で感じていただく作品です。

ミュージカル「ハートスートラ」
キャスト表
ミュージカル「ハートスートラ」
脚本

◆ミュージカル「ハートスートラ」の作曲・編曲家は、久田菜美さんです。上演をご希望の方は、上演許可申請書を提出していただき、作曲家の許可をいただいてから、譜面を送らせていただきます。

作家より
ブロードウェイで考えた「アジアのミュージカル」
脚本・作詞 ハマナカトオル

ニューヨーク、ブロードウェイの街角にたたずみ、多くのミュージカルの看板を見上げながら考えることは、この街で日本人が創作した「アジアのミュージカル」が成功するとしたら、どんな作品だろう、ということです。約20年間、私の頭の中には、 ひとつの題材があり、それを越える題材は浮かびませんでした。それが、日本で世界で最も愛されているお経「般若心経」でした。「えっ!? お経をミュージカルに!?」と、意外に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、 長年ミュージカルに携わっている私からしてみると、決して意外ではないのです。たとえば、ミュージカル「キャッツ」は、T・S・エリオットの詩が原作です。色々な猫の思想や哲学が散りばめられた詩の束が、ミュージカルになりました。「お経」も、 色々な仏教の思想や哲学が散りばめられた、詩によく似たものだと、私には思えます。しかもお経は、リズムに合わせて声に出して読誦するものですから、歌とも、とても近いものと感じていました。でも、その内容に関しては、私たちアジア人でも、 よく知らない人が多いと思います。お経なんて法事で聞くくらいですから、どうしてもお葬式のイメージと一緒になってしまいます。知り合いの若い人に「お経をミュージカルにしようと思うんだ」と話すと、「えっ!こわーい!」と言う人もいます。 でも、内容をよく知ると、お葬式とは関係ないもので、むしろ生きるために必要な、知っておいた方がいい智慧が書かれているのです。

ニューヨークで、「アジアのミュージカル」の上演に挑戦するなら、売りはストーリーではないなと、私は漠然と感じていました。この街にストーリーは溢れているからです。それより、とにかく100%アジアの思想・哲学・宇宙観・美術・衣裳・音楽・ 舞踊で出来ているミュージカルをプレゼンテーションする方がいいだろうと考えてきました。そうした作品は、あまり見られないからです。キリスト教の聖書を原作にしたミュージカルなら、ニューヨークにはいくつもあります。 しかし仏教など東洋的な思想や哲学をテーマにしたミュージカルは、あまりありません。ですが、「般若心経」は、英語で「ハートスートラ」というタイトルで出版され、ニューヨーカーたちの間でも大変ポピュラーです。 スティーブ・ジョブズやジョン・レノンにも多大な影響を与えていますし、アメリカでは、今、自ら仏教に関心を持ち、毎日仕事が終わったあとに自宅で瞑想などを行う、ナイトスタンド・ブディストと呼ばれる人が300万人を超えているとも言われますので、 ニューヨーカーたちにこのミュージカルを見せたら、どんな反応になるのか、アジアの人間として、是非見てみたいと思うようになりました。自我が肥大化した現代のアメリカ人に、「空」や「無」、自我を小さくすることを説く、 逆説的な「般若心経」のミュージカルを伝えたいと思うようになり、創作することを決めました。最近よく聞く「アメリカ・ファースト」とは、世界を「私たち」と「私たち以外」に分ける二元論です。これは争いのタネになります。 「般若心経」が導く一元論に、今の時代の人たちは、もう一度目を向けるべきだと思います。

「般若心経」を学ぶため本屋に行くと、「般若心経」関係の本の圧倒的な多さに驚きます。仏教のお経関係では、その8割から9割が「般若心経」の本で、さすがは「国民的お経」と呼ばれるだけあります。学術的な本から、お笑い芸人が書いたような柔らかい本、 写経の練習帳まで実に様々。永田町の国立国会図書館には、「般若心経」関係の本が700冊あるといいます。私もそのうち40冊ほど読みましたが、著者によって、その立場によって、書いてあることはずいぶん異なります。対立する意見もあり、 現代語への訳し方も様々。私は、仏教のなかにいる僧侶が書いた本より、中立的な立場の学者が書いた本の方が、よく理解出来ました。そして、「般若心経」の面白さと魅力を、改めて知ることが出来ました。

「般若心経」が言っていることの中心は、なんと言っても「空」と「無」のオン・パレードでしょう。この世の中のすべて、そして自分さえも、空である、無であると繰り返し言っています。「自分という存在は、五蘊という五つの要素の集まりであって、 自分という確固たる存在はない」と言うのは釈迦の教えですが、大乗仏教の経典である「般若心経」では、その五蘊さえも「空」であると説きます。この世の中にある決まり事や大前提を、すべて「ない」とリセットすること、 今の言葉で言うと「初期化」することが、「般若心経」というお経の中心思想です。仏教発祥の地インドには、仏教が生まれる以前からカースト制度が存在していました。生まれたその瞬間から自分の階級が決められていて、どんなに努力しても、 その身分から一生逃れることは出来ません。これは人間にとって苦しい大前提です。世の中の決まり事を、一度リセットしたい、という気持ちは当然だったでしょう。今の日本は、当時のインドよりはよほど自由ですが、それでも、学校や会社、家族、社会、 国家、資本主義など、個人を取り巻く決まりにがんじがらめになって、窮屈な気持ちになっている人は多いでしょう。なかには、逃れられず、自殺する人さえいます。心が苦しくなった時、「般若心経」の教えは、心を楽にしてくれる効果があると思います。

誰もが知っているように、西洋の宗教は、科学が発達するたびに衝突を起こして来ました。科学との相性がすこぶる悪いのです。そして、一部の原理主義者の主張を除き、宗教はいつでも「科学的には」間違っていました。ところが、 「般若心経」をはじめとする大乗仏教の経典は、不思議なことに最新の科学とも相性がいいのです。「物質は空である」とか「自我などない」と言った、普通に考えればびっくりするような理論が、現代の最新の量子力学や宇宙論が描き出す世界観、 あるいはユング心理学が提出する集合的無意識などの一元論的考えと折り合います。これは、遥かいにしえにこの教典を書いた人々(恐らく紀元1~2世紀頃と言われていて、釈迦ではありません)が宇宙の真理に近づいていたのか、あるいは、 たまたまそうなっただけなのか、私には分かりませんが、少なくとも、量子力学など全く知らなかった親鸞や空海の時代の人よりも、最新の科学について知識のある現代人の方が、大乗仏教、そして「般若心経」を別角度からも照射して思索できる、面白い時代になったのではないかと思います。これも、私がこの題材を欧米で上演したいと望む理由です。つまり、仏教の方が「今に通じる」でしょうということです。

私はこれまでに、釈迦(ブッダ)を描いた映画や舞台をいくつか観て来ましたが、共通した感想は、仏教が人々に何を教えたのかが、見終わった後に頭に残らない、ということでした。なぜだろうと考え、その理由の一端は分かったのですが、 私はこのミュージカルでは、仏教と「般若心経」の教えのうち、いくつか代表的なものが、観劇されたお客様の記憶に残るような作品にしたいと願い、創作しました。日本は「仏教国」と言われながら、自らの意思で仏教を学ぼうとする人は少なく、 その教えを知っている人も少ないように思われます。しかし、釈迦の時代から2,500年も伝えられ、多くの人々によって受け継がれてきた「東洋の智慧」を、ひとつの言葉でいいから持ち帰っていただきたい。この作品は、 そういうミュージカルであるだけでいいと思っていました。

「お経のミュージカル」なんて、ミュージカル座は、なんて変なミュージカルを創るんだと、ミュージカル・ファンや関係者の声が聞こえてきそうです。でも、私は、日本人、アジア人なら当然の発想だと思っているのです。むしろ、 今まで誰もミュージカルにしたいと思わなかったので、こんな宝石のような素敵な題材が手をつけられず残っていたことを、神様、じゃなかった、仏様に感謝したいほどです。最後に、私が「般若心経」に惹かれた理由は、 ひょっとすると「舞台をやっているから」かもしれません。舞台は、瞬間に輝き、毎日変化して、消えてなくなり、後に何も残さない芸術です。そして、宇宙の本質へと繋がっています。舞台人は、「空」を理解しやすい人々ではないかと思う今日この頃です。

ミュージカル「ハートスートラ」
作曲家プロフィール
久田菜美(作曲・編曲・音楽監督)

東京都出身。東京音楽大学作曲・指揮専攻(芸術音楽コース)卒業。大学でクラシックから現代音楽までの作曲法を学び、卒業後は主にピアニストとしてクラシック、ポップス、ジャズ、合唱と幅広く活躍中。 舞台においては、ミュージカル「スペリング・ビー」や「モンスターズアンセム」にてキーボードで参加し、その他多数のミュージカル俳優やミュージカル女優のライヴにて伴奏を行っている。 ミュージカル座では、「野の花」「不思議なラヴ・ストーリー」「アイランド~かつてこの島で」「BEFORE AFTER」「スペリング・ビー」の音楽監督と演奏を担当。 ハマナカトオルと組んだオリジナル・ミュージカル「チェアーズ」「スター誕生」「ハートスートラ」「アワード」の作曲・編曲・音楽監督として、魅力的な歌曲を多く創作している。

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作品ビジュアル
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舞台写真
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動画
ミュージカル「ハートスートラ」2019バンド合わせ
歌って祈ってみた!ミュージカル「ハートスートラ」