ミュージカル「サイト」
ミュージカル「サイト」
作品内容

自分の部屋から一歩も外へ出られない「ひきこもりっこ」の女性が、インターネットのサイトに書き込んだ「私は死んだ方がいい」という言葉に、見知らぬ人々からコメントが届き始めます。言葉を送ってきた不思議なハンドルネームの彼らは、 自分も生きることに悩み苦しむ若者たちでした。顔も素性も知らない仲ながら、彼らとひきこもりっこの間に、次第に心の結びつきが生まれてきます。ハンドルネームからイメージされた登場人物たちが、ひきこもりっこのサイトで、 生きることについて真剣に問い続け、励まし合い、にぎやかに歌い踊る命のミュージカル。いじめや、人生に悩みひきこる若者の心の問題にスポットを当てた作品。ラストシーン(数人が街で実際に出会う場面)は通常のセリフ(芝居)で書かれ、 それ以外のパソコンで会話する部分は、実際の会話ではないとして、すべて歌(歌詞)で書かれている。次々と繰り広げられる歌とダンスのなかで、日本の若者の心が浮き上がる現代劇となっている。

ミュージカル「サイト」
キャスト表
ミュージカル「サイト」
脚本
ミュージカル「サイト」
楽譜
作家より
『インターネットの時代のミュージカル』
脚本・作詞 ハマナカトオル

ミュージカルは、20世紀初頭からアメリカで現代劇として発達して来た舞台芸術のジャンルです。その時代を映す鏡のような作品が生まれて来ました。大不況の時代には、不況の現実を描くシリアスな作品や、 不況に打ち勝つ希望を持った作品が生まれました。戦争が起こると、戦争に反対するメッセージを持った作品や、アメリカでは時に戦争を支持し、戦意を鼓舞する作品も上演されました。カウンター・カルチャーの時代には、 若者たちに新しく生まれた価値観や宗教観もミュージカルに描かれました。ひとつのミュージカルを語るには、作品が生まれたその国の時代背景を知ることが不可欠です。それでは、今の日本から、 いったいどのようなミュージカルが生まれるべきなのでしょうか?

私は、日本のミュージカルの創作に取り組んでからずっと、今の日本から生まれるべきミュージカルについて考え続けていました。ところが、しばらくの間、これがまったく浮かんで来なかったのです。今の平和な日本から、 何をメッセージにミュージカルを書いていいのか、私のアンテナに引っかかって来ませんでした。仕方がないので、過去の歴史や外国に題材を求めたミュージカルを書いていました。しかし、それでもなお、今の日本から生まれるミュージカルについて、 考えるのをやめたわけではありませんでした。

ミュージカル「レント」の日本初演公演を赤坂見附の会場で観た帰り道、赤坂を歩きながら、ずいぶんニューヨークと東京では街の空気感が違うことに、改めて気づきました。「レント」は、まさにその時代から生まれて来た現代のミュージカルで、 作品が生まれたニューヨークの劇場では、舞台の上の世界と劇場の外に出た通りが、地続きで繋がっているように感じたのですが、東京の赤坂では、まったくそのように感じなかったのです。それでは、この東京にふさわしい題材とはなんだと、帰り道、 真剣に考え始めたことを記憶しています。

インターネットの発達は、この四半世紀で、最も大きなインパクトを持つ出来事だったと思います。時代が大きく、激しく変わりました。世界中の人々の脳が繋がったようなすごさがあり、便利になり、助かったこともたくさんありますが、その反面、 危険な世界や人間の闇の部分も同居しています。インターネットのおかげで幸せになった人もいるでしょうし、破滅した人もいるでしょう。私も、少なからぬ影響を受けて行きました。 次第に現実空間ではないサイバー空間で繰り広げられるミュージカルの可能性について思いを馳せるようになり、2000年代初めのネットの掲示板で、ひとつの問題に対して匿名で語られる本音の言葉の洪水を眺めているうちに、 この作品のアイデアを思いつきました。ネットに書き込まれた夥しいひとつひとつの言葉(意見)が、私にはミュージカルの歌詞のように見えて来た瞬間があったのです。2ちゃんねるなどに代表される掲示板に書き込まれる言葉は、匿名性もあって、 直接人と会って話す時には、とても言えないような言葉も含まれています。話し言葉より本音が表れています。ミュージカルの歌も心の表現で、相手に向かって話すセリフより本音が表れます。歌でセリフを綴るミュージカルは、セリフで綴るお芝居より、 心の表現に向いている舞台芸術のジャンルと言えます。『インターネットの世界で繰り広げられる本音の会話を、歌と踊りで描くミュージカル』を創ってみたいと思うようになりました。

ミュージカルのスタイルとしては、「キャッツ」や「コーラスライン」のスタイルで描きたいと思っていました。簡単に説明すると、セリフで進行する普通のドラマ(芝居)とは似ていなくて、 「紅白歌合戦」などのショーやコンサートに近い舞台のスタイルです。その場面のメインとなる人が中心で歌い踊り、その他のキャストは、バックコーラスやバックダンサーとしてメインの人を応援する(盛り上げる)。メインで歌った人も、 自分がメインでない時には、他の人のバックをつとめます。ミュージカルが誕生する以前からあった古い「ショー」の原型ですが、この形式は、現在の最も新しいミュージカルまで、表層を変えて連綿と受け継がれています。原型ですから、 とても安定したスタイルなのです。この作品では、インターネットの世界で交わされる「実際の会話ではない会話」は、すべて音楽の中で歌と踊りで描き、ラストシーンで、現実世界で交わされる「実際の会話」は、 音楽を止めて普通のお芝居で描こうと決めました。「ネットの世界」と「現実世界」で、表現のスタイルを変えたのです。ミュージカルの「音楽」部分と「芝居」部分で、これだけ明確な区分けを定義出来るのは、私の作品ではこの「サイト」だけで、 私がこの作品を好きな理由です。

ミュージカル「サイト」
作曲家プロフィール
山口琇也(作曲・編曲)

桐朋学園大学音楽学部卒業後、オペラ、ミュージカルの舞台に数多く出演。

また、スタジオプレイヤー(ベース、キーボード、ヴォーカル)、コンサートのバックミュージシャン、アレンジャー、指揮等々の経験を積んだ後、スタッフ活動に加わり、ミュージカルの分野では「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「回転木馬」「42nd ストリート」「ラ・マンチャの男」「ベガーズ・オペラ」「ブラッド・ブラザーズ」「GOLD~カミーユとロダン~」「ダディ・ロング・レッグズ」等の音楽監督、並びにヴォーカルトレーナーを務め、コンサート、リサイタルの構成・プロデュースなども数多く手がけている。

また、タレント、歌手の方々のヴォーカル指導にも力を注ぎ、あらゆるジャンルに対応出来る声作りを目指している。 「ひめゆり」「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」「ルルドの奇跡」「赤毛のアン」「ママ・ラヴズ・マンボ」「スウィング・ボーイズ」など、オリジナル・ミュージカルの作曲・編曲家としても数多くの作品に参加し、「山彦ものがたり」では文化庁主催海外公演(中国・ベトナム・韓国)を行い、英語台本でのニューヨーク公演は反響を呼んだ。

「ミュージカル座」の作曲・音楽監督として、オリジナル・ミュージカルの新作発表を目標に創作活動を続けている。その他、NHKをはじめ多くのTV番組の音楽スタッフとして活動するかたわら、若い才能の育成にも力を注いでいる。

2006年には舞台の音楽活動に対し菊田一夫賞(特別賞)、2007年には読売演劇大賞優秀スタッフ賞、2010年には日本演劇興行協会賞を授与された。ミュージックオフィスALBION代表。

ミュージカル「サイト」
作品ビジュアル
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舞台写真
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動画
田宮華苗「この世界のどこかで」