1858年、フランスの貧しい田舎町ルルドに住む貧しい粉挽き職人の娘ベルナデットは、ある日薪拾いに出かけたマッサビエルの洞窟で、聖母マリアと出会います。聖母はベルナデットに、これから15日間、毎日ここへ来るようにと命じ、 「人々が行列をつくってここへ来るよう望みます。」「ここに聖堂を建てるよう司祭に伝えなさい。」「あなたはこの世では幸せになりませんが、次の世での幸せを約束しましょう。」などの驚くべき言葉を伝えます。さらに、 ベルナデットが聖母の指示するままに洞窟に掘った穴から泉が湧き出て、病人を治すという奇跡が起こり、ルルドの町は、その真贋をめぐって大騒ぎになります。ベルナデットは嘘をついているのか、それとも本当に聖母マリアと出会ったのか。 しかし、それはこの奇跡の物語の始まりに過ぎませんでした・・・。
「ひめゆり」などのミュージカルを創作してきた山口琇也とハマナカトオルのコンビが、19世紀のフランス、ルルドで起こった聖女ベルナデットの奇跡の実話を全編歌で描いた、心洗われるミュージカルです。「アヴェ・マリア」「ベルナデットの歌」 「すべては愛のために」ほか、全47曲のミュージカル・ナンバーで綴られ、山口&ハマナカ作品の中で、最も美しいミュージカルと言われています。舞台上に作られた奇跡の泉に湧く水は、フランスのルルドから取り寄せた本物の水を使うなど、 リアリティにこだわった演出は見応えたっぷり。ルルドの町やマッサビエルの洞窟を再現した舞台装置にプラスされる幻想的な映像演出も必見の美しさ。信じられないような奇跡のストーリー。この世に満ちている目には見えない大きな愛が、 あなたを癒やす聖なるミュージカルです。
「ルルドの奇跡」は、私と作曲のビリー(山口琇也)さんが書いたミュージカルの中で、全編歌で綴るポップ・オペラ形式の作品としては「ひめゆり」に続く作品です。「ひめゆり」執筆の際、地獄のような戦場の様子をリアルに想像する毎日が続き、 悪寒に襲われるような日々を体験した私は、次にこうした作品を書く時は、天国を感じるような、心癒される作品を書きたいと願っていました。同時に、「ひめゆり」は全体を“鎮魂歌”として作りましたので、次の作品では、 ぜひ“讃美歌”を書きたいと望んでいました。
聖女ベルナデットとルルドの奇跡のお話は、小さい頃から知っていて、美しい不思議なお話だと思っていたのですが、あらためて資料を集めて読んでみると、美しい讃美歌と静かな祈りの歌と、 そこで起こった出来事に対する町の人々の世俗的なドタバタが、音楽的にも面白い対比として描けることが分かり興味を持ちました。祈りは心の声ですから、セリフより歌に向いています。また、19世紀に起こった過去の出来事というだけでなく、 今も年間数百万人が世界中からルルドを訪れ、奇跡と癒しを生み続けていることにも惹かれ、全編音楽で進行するミュージカルにすることを決めました。執筆は順調でした。すでに数作品のミュージカルを一緒に書いていただけに、私と作曲家の間には、 ベルナデットと聖母のように霊感が通っていました。私はこの作品では、前作「ひめゆり」で難しいと感じていたレチタティーヴォ(叙唱)を書くことを楽しいと感じていました。よく設計されたレチタティーヴォは、 次に来るアリア(詠唱)を一層引き立てます。効果的な音楽とドラマの配色を仕掛けて行くことが楽しく、ビリーさんから送られてくる譜面を、ワクワクしながら読んだことを思い出します。第一幕が出来上がった時、ビリーさんは、 自分でピアノを弾きながら、全25曲、すべての役を自分一人で歌ったテープを送って来ました。それを聞いた時の手ごたえは今でも忘れられません。私は大好きなミュージカルが出来たと興奮してビリーさんに電話をかけ、感謝の気持ちを伝えました。
劇場は、私にとって教会です。人々が内なる声にふれ、精神の糧となる舞台を観たい、創りたいと、いつも願っています。私はクリスチャンではありませんが、このお話の中で起こる奇跡に期待する気持ちに偽りはありません。 奇跡など起こらない世界と、奇跡が起こる世界では、奇跡が起こる世界の方を愛したいと思うからです。この美しく感動的な実話の内容に値する舞台に仕上げられるよう、いつも全力を尽くしたいと思うミュージカルです。 聖母マリアがベルナデットに語ったごとく、「人々が行列をつくってここへ来るよう」望むために。
桐朋学園大学音楽学部卒業後、オペラ、ミュージカルの舞台に数多く出演。
また、スタジオプレイヤー(ベース、キーボード、ヴォーカル)、コンサートのバックミュージシャン、アレンジャー、指揮等々の経験を積んだ後、スタッフ活動に加わり、ミュージカルの分野では「ミス・サイゴン」「レ・ミゼラブル」「回転木馬」「42nd ストリート」「ラ・マンチャの男」「ベガーズ・オペラ」「ブラッド・ブラザーズ」「GOLD~カミーユとロダン~」「ダディ・ロング・レッグズ」等の音楽監督、並びにヴォーカルトレーナーを務め、コンサート、リサイタルの構成・プロデュースなども数多く手がけている。
また、タレント、歌手の方々のヴォーカル指導にも力を注ぎ、あらゆるジャンルに対応出来る声作りを目指している。 「ひめゆり」「アイ・ハヴ・ア・ドリーム」「ルルドの奇跡」「赤毛のアン」「ママ・ラヴズ・マンボ」「スウィング・ボーイズ」など、オリジナル・ミュージカルの作曲・編曲家としても数多くの作品に参加し、「山彦ものがたり」では文化庁主催海外公演(中国・ベトナム・韓国)を行い、英語台本でのニューヨーク公演は反響を呼んだ。
「ミュージカル座」の作曲・音楽監督として、オリジナル・ミュージカルの新作発表を目標に創作活動を続けている。その他、NHKをはじめ多くのTV番組の音楽スタッフとして活動するかたわら、若い才能の育成にも力を注いでいる。
2006年には舞台の音楽活動に対し菊田一夫賞(特別賞)、2007年には読売演劇大賞優秀スタッフ賞、2010年には日本演劇興行協会賞を授与された。ミュージックオフィスALBION代表。